アルバイトの夜勤明け、住宅がひしめき合う杉並区の自宅アパートに帰宅した。昼夜が逆転した生活を繰り返し、日中の睡眠が浅くなっていたため、3種類の睡眠剤を服用するようになっていた。薬を飲み耳栓をし、ベッドに横になった。しばらくすると、外から釘を打つ甲高い音が響きわたった。アパートの隣のわずかな敷地に、住宅の建設工事が行われていた。これから工事が始まるようだった。
古い六畳間の部屋の天井を見つめ、東京の人口が何人になれば住みやすい街になるだろうかと、とりとめもなく考えた。
ふと、住宅工事の騒音の間から、ピアノの音色が聴こえててきた。リスト作曲の「ラ・カンパネラ」だった。どうやら、階下の部屋から聴こえてくる。私は、ねじ込んでいた耳栓を外し、目を閉じ再びベッドに横になった。