使っていたイヤホンが壊れたので、新しいものを買うために赤坂にある家電量販店を訪れた。2千円くらいの予算で購入しようと商品棚を眺めていたら、1万円程の試聴できるイヤホンが目に止まった。盗難防止のためにコードが短く括られたイヤホンを耳につけ、棚に身を寄せてiPhoneに繋いだ。普段から良く聴く、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番をかけた。イヤホンの音質は、これまで使っていたものとは違い低音の響きに深みがあり、とても広い空間で聴いてるような心地良さに包まれた。棚の隙間から目に映ったのは、レジを待つ中年男性と、その背後には外の幹線道路の工事の様子だった。そのイヤホンで聴くラフマニノフは中年男性と騒がしそうな工事を、とても愛おしいもののように錯覚させた。私はイヤホンを外し、4千円の商品を手に取り、レジに向かった。