Month: August 2014

アルバイトの夜勤明け、住宅がひしめき合う杉並区の自宅アパートに帰宅した。昼夜が逆転した生活を繰り返し、日中の睡眠が浅くなっていたため、3種類の睡眠剤を服用するようになっていた。薬を飲み耳栓をし、ベッドに横になった。しばらくすると、外から釘を打つ甲高い音が響きわたった。アパートの隣のわずかな敷地に、住宅の建設工事が行われていた。これから工事が始まるようだった。 古い六畳間の部屋の天井を見つめ、東京の人口が何人になれば住みやすい街になるだろうかと、とりとめもなく考えた。 ふと、住宅工事の騒音の間から、ピアノの音色が聴こえててきた。リスト作曲の「ラ・カンパネラ」だった。どうやら、階下の部屋から聴こえてくる。私は、ねじ込んでいた耳栓を外し、目を閉じ再びベッドに横になった。

使っていたイヤホンが壊れたので、新しいものを買うために赤坂にある家電量販店を訪れた。2千円くらいの予算で購入しようと商品棚を眺めていたら、1万円程の試聴できるイヤホンが目に止まった。盗難防止のためにコードが短く括られたイヤホンを耳につけ、棚に身を寄せてiPhoneに繋いだ。普段から良く聴く、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番をかけた。イヤホンの音質は、これまで使っていたものとは違い低音の響きに深みがあり、とても広い空間で聴いてるような心地良さに包まれた。棚の隙間から目に映ったのは、レジを待つ中年男性と、その背後には外の幹線道路の工事の様子だった。そのイヤホンで聴くラフマニノフは中年男性と騒がしそうな工事を、とても愛おしいもののように錯覚させた。私はイヤホンを外し、4千円の商品を手に取り、レジに向かった。