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賃貸の家の更新に伴い、もう少し安い物件に引っ越しをしようと、中野坂上の不動産屋を訪れた。一戸建てに憧れて、物件を見に行くことにした。 訪れた一戸建ては、三方を建物で囲まれてた、日当たりの悪い、古い造りの家だが、内装はとても綺麗にリフォームをされた立派な2階建の家だった。中を見ると、風呂場やトイレ、階段などいたるところに手すりが取り付けられていた。ここにかつて住んでいた人物がすぐに想像できるものだった。隣にそびえ立つ高層マンションとの隙間は2mもない。その僅かな隙間に、とても細く小さな庭があった。庭園を真似ていくつか庭石が並べられており、うっすらと苔が覆っていた。 「ここに住んでいた方は、今はどうされたんでしょうね?」 私は、無意味な質問を不動産会社の男性に尋ねた。男性はその質問を少し受け止めて、答えずに次の話題を始めた。 庭先に目をやると、大きなウシガエルがピョンと飛び跳ねていた。
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アルバイトの夜勤明け、住宅がひしめき合う杉並区の自宅アパートに帰宅した。昼夜が逆転した生活を繰り返し、日中の睡眠が浅くなっていたため、3種類の睡眠剤を服用するようになっていた。薬を飲み耳栓をし、ベッドに横になった。しばらくすると、外から釘を打つ甲高い音が響きわたった。アパートの隣のわずかな敷地に、住宅の建設工事が行われていた。これから工事が始まるようだった。 古い六畳間の部屋の天井を見つめ、東京の人口が何人になれば住みやすい街になるだろうかと、とりとめもなく考えた。 ふと、住宅工事の騒音の間から、ピアノの音色が聴こえててきた。リスト作曲の「ラ・カンパネラ」だった。どうやら、階下の部屋から聴こえてくる。私は、ねじ込んでいた耳栓を外し、目を閉じ再びベッドに横になった。